クィンタの自認はともかく、揉め事か……。
クィンタの言う『熱い視線』は、間違いなくBL妄想関係だと思う。兵士の皆さんの一挙動は、今や私たちの萌えの源泉。注目してしまうのは致し方ない。けれどそれが兵士を勘違いさせるのはいけない。私たちは兵士その人が好きなのではなく、彼から感じられるBLの波動を妄想として愛しているのだ。
勘違いした兵士が強引にメイドに迫ったら、お互い不幸になるだけだろう。「分かりました。私からメイドの皆さんに話しておきます。……それにしてもクィンタさん、『熱い視線』が勘違いだとよく分かりましたね?」
「言ったろ、俺はモテるからな。メイドちゃんたちのあれは、男の誰かを好いているのとは違う感じだ。なんつーか、有名な劇俳優の追っかけファンとかに似てる気がした」
おお、鋭い。
でも劇俳優ファンは、その人の恋人になりたいと思っている層も一定数いるから。 我々はまた違うのである。そういう系統は腐女子ではなく夢女子と呼ぶ。「あとなぁ……」
クィンタはげんなりした様子で肩をすくめた。
「俺がベネディクトと絡んでいると、妙に視線を感じるんだ。あれ何? フェリシアちゃん、分かる?」
「いいえ、さっぱり分かりません」
私はいい笑顔で答えた。
クィンタは何か言いたそうだったが、休憩時間の終わりを告げるラッパが鳴って彼は戻っていった。 さて、クィンタのおかげで問題が起こる前に気づけた。彼には感謝しておこう。 その日の就寝前、執筆はお休みしてメイドたちを集める。 クィンタから聞いた話を伝えると、案の定メイドたちは不満そうだった。「兵士さん自身に気があるわけではありません。勘違いされても困ります」
と、リリアが頬をふくらませている。
「でも、気をつけるのは私たちだわ。男性から強引に迫られて怖い思いをするのは嫌でしょう? 勘違いしたお相手も気の毒だしね」
みんなうなずいた。
「だからなるべく、萌えは
「瘴気……」 瘴気については帝都にいるときに学んだ。 魔物の力の源泉で、人間にとっては猛毒となるもの。 五大属性の魔力とは全くの別物で、聖女の力によってのみ浄化されると言われている。 聖女の力。 私はベネディクトを振り仰いだ。「もしきみが本当に聖女の力を持っているのなら――」 彼は手を握りしめる。 それから迷いなく床に膝をついた。……私の前に跪くように。「どうか、こいつを助けてやってくれ。こいつはここで死んでいい男じゃない。そのためならば、私は何でもしよう」「やめろ、ベネディクト。フェリシアちゃんを、困らせるんじゃねえ……ガハッ」 クィンタが血を吐いた。 怪我は確実に悪化している。このままだと彼は本当に死んでしまうだろう。 ――助けたかった。心から。 だって私は、ベネディクト×クィンタが最推しカプなのだ。 こんな形で推しを失いたくない。推しは末永く幸せにならなくてはいけない! それに涙を流し続けている、魔法隊の少年。 彼だってなかなかの逸物だ。命の恩人の憧れから、きっと素晴らしい攻め様に成長してくれるはずなんだ。 でも私は名ばかり聖女で、昔の聖女が使えたはずの光の魔法は身につけていない。 別にサボっていたわけじゃない。光の魔法それそのものがあやふやな伝説で、誰も教えてくれなかった。 先代の聖女様はずっと昔の人。もう記録は残っていなかったのだ。「記録……」 ふと、思い出した。先代の聖女様が書き残したと言われている古文書のことを。 古文書というが実は聖女様の日記帳で、他愛もないことばかり書かれていた。今日の天気だとか、道端のお花がきれいだったとか、夫である皇帝がイケメンだとか。 その中にこんな一文があった。『今日もわたしは幸せです。わたし自身が幸せであり、他者と国の幸福を祈ることこそが聖女の力の源となる』 あまりに抽象的で、当時は読み飛ばしてしまった文。 聖女の祭壇にも似た記述があったっけ。
それは突然の出来事だった。 昼下がりの平和な時間を打ち砕くように、鐘の音が高く鳴り響く。「魔物の襲撃だ!」「位置は北に三マイル! 昆虫系の群れ!」 情報が怒号のように交わされる。 兵士たちは即時に訓練を中止して、要塞前の広場に集まった。 慣れた動きで隊列を組み、整然とした列を作る。「皆の者! 久方ぶりの襲撃だが、たるんでいる者はいないな?」 整列した兵士たちを前にして、軍団長が声を張り上げた。 その声はいつもの穏やかなものではなく、軍人としての威厳に満ちていた。 隣には副軍団長のベネディクトが控えて、鋭い視線を向けていた。「この町を、国を守るため、人々に害をなす魔物は速やかに始末せねばならん。――開門、出撃!」 オオ――ッ! ときの声が上がる。 騎乗した軍団長とベネディクトを先頭に、兵士たちは続々と門を出ていった。「魔物の襲撃……。皆さん、大丈夫でしょうか」 兵士たちが去った要塞の中で、私は不安な思いに駆られる。「きっと大丈夫ですよ。ゼナファ軍団の兵士たちは、歴戦の強者ですから」 リリアが私の手を取って励ましてくれた。 メイド長は息を吐く。「ここしばらく魔物が出なかったから、安心していたのに。やっぱりこうなってしまうんだね」 私が要塞に来てからもう二月以上になるが、魔物の襲撃は初めてだった。「いつもはもっと頻繁なのですか?」「ええ。一ヶ月に一度以上は魔物討伐が行われていたわ。そのたびに怪我人が出て……」「ずっと平和でいてほしかったのに」「カプでお気に入りの兵士さん、そうじゃない人も、どうか無事で」 メイドたちも落ち着かない様子で小声で話している。 メイド長が両手を打ち鳴らした。「さあさあ、みんな! 私たちが湿っぽくしていたって仕方ない。いつ
クィンタの自認はともかく、揉め事か……。 クィンタの言う『熱い視線』は、間違いなくBL妄想関係だと思う。兵士の皆さんの一挙動は、今や私たちの萌えの源泉。注目してしまうのは致し方ない。 けれどそれが兵士を勘違いさせるのはいけない。私たちは兵士その人が好きなのではなく、彼から感じられるBLの波動を妄想として愛しているのだ。 勘違いした兵士が強引にメイドに迫ったら、お互い不幸になるだけだろう。「分かりました。私からメイドの皆さんに話しておきます。……それにしてもクィンタさん、『熱い視線』が勘違いだとよく分かりましたね?」「言ったろ、俺はモテるからな。メイドちゃんたちのあれは、男の誰かを好いているのとは違う感じだ。なんつーか、有名な劇俳優の追っかけファンとかに似てる気がした」 おお、鋭い。 でも劇俳優ファンは、その人の恋人になりたいと思っている層も一定数いるから。 我々はまた違うのである。そういう系統は腐女子ではなく夢女子と呼ぶ。「あとなぁ……」 クィンタはげんなりした様子で肩をすくめた。「俺がベネディクトと絡んでいると、妙に視線を感じるんだ。あれ何? フェリシアちゃん、分かる?」「いいえ、さっぱり分かりません」 私はいい笑顔で答えた。 クィンタは何か言いたそうだったが、休憩時間の終わりを告げるラッパが鳴って彼は戻っていった。 さて、クィンタのおかげで問題が起こる前に気づけた。彼には感謝しておこう。 その日の就寝前、執筆はお休みしてメイドたちを集める。 クィンタから聞いた話を伝えると、案の定メイドたちは不満そうだった。「兵士さん自身に気があるわけではありません。勘違いされても困ります」 と、リリアが頬をふくらませている。「でも、気をつけるのは私たちだわ。男性から強引に迫られて怖い思いをするのは嫌でしょう? 勘違いしたお相手も気の毒だしね」 みんなうなずいた。「だからなるべく、萌えは
興奮して詰め寄ってくるメイドたち押し留めながら、落ち着かせながら言う。「みんな、ありがとう。でも推し活は生活に負担がかからない程度にね」「推し活?」「さっきの物語みたいに、好きなことにお金や時間をかけることよ。そりゃあ楽しいけれど、普段の生活をしっかりこなしてからの話だから」「それはそうだよね。分かったわ。気をつける」「ええ、お願い。それから夜の執筆を、これまで通り見逃してほしいのだけれど」「もちろん!」 メイド長は力強くうなずいた。「何なら昼間も時間が取れるよう、仕事を調整するけれど?」「それは駄目です。私はメイドとしてしっかり働いた上で、物語を書いていきたい。私はこのゼナファ軍団のメイド、みんなの仲間だもの」 まあ本音を言えば、少数ファンのカンパだけで専業作家になるほどの勇気がない。 今は本業(メイド)をこなしながら、生活基盤を作りながら、兼業作家としてBL布教に邁進する時期である。 専業になるのはしっかり売れるようになってからで遅くないのだ。 じゃないと生活の不安があるもの。夢を追いかけるのは大事だが、足元の生活も大事。「フェリシア先輩……!」 リリアが駆け寄って手を握ってきた。「わたし、先輩についていきます。物語執筆のお手伝いも、がんばります!」「あっ、リリアずるい! あたしだってフェリシアのファンになったんだから」「私も!」「あたしもー!」 メイド部屋の中の熱気は全く収まらない。 この熱い空気の中で、私たちは存分に萌え語りを楽しんだのだった。 リリアに続きメイドの皆さんが腐女子仲間になってくれた。 休憩時やちょっとした時間に萌え語りができるようになって、私の生活はますます充実している。 今日はこんなシーンを目撃した。 食いしん坊の兵士が厨房につまみ食いにやって来て、
執筆の時間は変わらず夜に取っている。昼の仕事に支障が出ないよう、こっそりと。 夜寝る前にメイド部屋を抜け出すのだが、私一人からリリアと二人になった分、ずいぶん目立ってしまったらしい。 メイド長から呼び出されて、どういうことかと聞かれてしまった。「フェリシア先輩は、とっても素敵な物語を書いているんです!」 息巻くリリアに、どうどう、と制止をかける。 メイド長と他のメイドたちは不思議そうな顔をしていた。「物語ですって?」「フェリシアさんが?」「さすが、貴族のお嬢様のすることは違うわね」 幸いなことに、彼女らの様子に嫌悪は見えない。ただ不思議そうにしているだけだ。 メイド長は首を振った。「けど、消灯時間以降に出歩くのは規則違反よ。今後はやめなさい」「すみません。それはできません」 私がきっぱり言えば、メイド長はますます困惑した様子になった。「なぜ? 住み込みメイドである以上、規則には従わないと駄目よ」「いけないことをしているのは分かっています。でも物語の執筆は――私の使命なのです」 私は両手を胸に当てた。 これだけは絶対に譲れない。私の身命を賭してでも、やりとげなければならない大事業なのだ。「使命」 言い切ると、彼女は眉間に深くシワを刻んだ。困惑がにじんでいる。「そこまで言うのなら、その物語とやらの内容を聞かせなさい。聞いて判断しましょう」「……はい!」 そうしてメイドたちの前で、私は語り始めた。 神々と英雄の戦いの物語を。 私が語るのは誰もが知る古典物語であって、そのままではない内容。熱い男たちの絆と友情と、愛と憎しみに主眼を置いた物語だ。 とりあえずメイドの皆さんはBL初心者なので、えっちなシーンなどは省いてブロマンス的に語ってみた。あまり濃厚な絡みは初心者には刺激が強すぎるからね。 メイドたちの反応を見ながら、少しずつBL要素を濃くしていく。
TPOはわきまえるべき。それはもちろんだ。 腐女子は隠れて生きる定め。場所もわきまえずに大っぴらにしてはいけない。 けれどこれはチャンスではないか? もしもリリアにBL適性があれば、腐女子仲間を一人増やせるのだ! よし、ここは慎重に……!「……物語を考えるわ」 私は言葉を選びながら言った。 もしリリアにBL適性がなかったとしても、別の方向に話を逸らせばいい。「物語ですか?」 意外だったらしく、リリアはきょとんとしている。「ええ。私が気に入っているのは、英雄と神々の戦いのお話。あの有名な古典の英雄叙事詩よ」 平民であるリリアも知っていたようで、うなずいている。「でも、戦いのお話は男性むけじゃないですか? わたし、戦争のことはよく分かりません」「あのお話は戦いばかりではないわ。英雄たちの友情と絆、愛憎、そういったものが重要なの」「絆……」 リリアがいいところに食いついた。さりげなく『愛憎』を混ぜたかいがあったぞ。「そう、絆。憎しみも愛情も全ては人と人との絆と言える。あの物語の発端は、ある国の王妃だった絶世の美女を、他国の王子が奪い取ったことだったわね」「はい。奪われた王が激怒して戦争になったんですよね」「王妃は神々の力で王子を愛するようになった」「ひどい話です。神様が夫婦の仲を引き裂くなんて」「でも、もしかしたら王妃は王を愛していなくて、略奪者である王子を待ちわびていたのかもしれないわ」「え……」 リリアが目を丸くしている。 こういった解釈の多様さが二次創作の醍醐味ってやつだ。「絶世の美女というからには、人しれぬ苦労もあったでしょう。本当は好きな人がいたのに、王に無理やり結婚を迫られたのかも」「ありそうです!」「もしもを考えるなら、いろんなことがあるわね。例え
男ばかりのBLパラダイスな要塞町であるが、やはり推しカプはいる。 まず第一にベネディクト×クィンタの幼馴染カプ。 彼らはあらゆる面が対照的なのがいい。 性格はベネディクトがクソ真面目、クィンタがチャラ男。戦闘スタイルはそれぞれ剣と魔法。出自もベネディクトは貴族に対し、クィンタは平民と聞いた。 彼らはずっと昔から仲がいいのに、お互いに腐れ縁だと言っている。そこもよい。 腐れ縁だの悪口を言いながら、背中を預けるだけの信頼がにじみ出ている。よきよき。 で、第二に軍団長×ベネディクトだ。ベネディクト氏大活躍である。 包容力のある大人な軍団長と堅苦しくて融通の効かないベネディクトの組み合わせ。もはや鉄板と言っても過言ではないだろう。 今日もクィンタとベネディクトが親しげに肩を組んでいたのを見て、私、内心で大歓喜である。 まあクィンタが一方的に腕を肩に回していて、ベネディクトはちょっと迷惑そうだったが。 むしろカプ解釈に沿っていてよろしい。 脳内に焼き付けた肩組み映像を反芻しながら掃除をしていると、急に声を掛けられた。「フェリシアさん? またニマニマして、どうしたんですか?」「うひょおぅ!?」 目を上げるとリリアがいた。 彼女とはすっかり打ち解けたので、つい油断して奇声まで上げてしまった。 他の人相手ならまだこうはならない。かつての帝都の鉄面皮令嬢の名にかけて、顔面崩壊だけは避けたい所存だ。 リリアは私の奇声に首を傾げた。「うひょう……。フェリシアさんは、普段は儚げなお嬢様なのに。ときどき変ですよね」「ごめん、聞かなかったことにして」「はあ」 リリアは呆れたようにちょっと笑った。 なんだろう、元気がない感じがする。「どうしたの? 何かあった?」「いえ……。また仕事で失敗してしまって」 リリアは肩を落としている。 彼女は私に仕事を教えてくれた先輩だけれど、確かにちょっとドジなところがある。
【ベネディクト視線】 去っていくフェリシアの姿を眺めながら、ベネディクトは先程のやりとりを思い出していた。 この要塞町では常に魔物との戦いが繰り広げられていて、息をつく暇もない。負傷者はしばしば出て、死亡するものも少なくはない。 ここしばらくは――そう、フェリシアがやって来た頃からだ――小康状態が続いているが、いつまた激戦が始まるか分からないのだ。 だから『聖女』の伝説に希望を持ってしまった。 先代の聖女はもう百年以上前の人物で、その功績はどこまでが事実でどこからが伝説なのかも判然としない。 だが彼女は魔物との戦いに大きな存在を示し、多数の人々を守ったとされている。 先代だけではない。 聖女と呼ばれる人物は今まで何人もいて、それぞれに功績が語られている。 特に最初の『建国の聖女』は神話めいた伝説上の人物だ。彼女は国を建てる際に大きな貢献をしたとされるが……。 フェリシアの身の上は軍団長からおおよそ聞いていた。 有力貴族家の出身で、元は皇太子の婚約者。それが聖女を騙った罪で王都を追放され、この要塞町で雑用係に落とされた。 ベネディクトは軍団長同様、フェリシアはわがままな悪女なのだろうと思っていた。皇太子を騙して聖女の地位にあぐらをかいていた、贅沢好きな性悪女なのだろうと。だから警戒していた。 ところが見張っていると、彼女は健気な頑張り屋にしか見えない。 箱入り令嬢とは思えないほど積極的にメイドの仕事をこなす。誰もが嫌がるトイレ掃除を引き受けてピカピカに磨き上げ、その後の使い方まで指導した。 斬新なアイディアで食事を改善して、兵士たちの士気と体調が大いに改善された。それも予算内で食材を収めたというのだから、感心する以外にない。 また彼はフェリシアが夜中に書き物をしているのも知っている。 内容をあらためるべきか迷ったが、執筆中の彼女がとても真剣で、ときどきうっとりと幸せそうな表情をするものだから、つい声をかけそびれてしまった。 ベネディクトは、フェリシアという女性が分からなくなってしまった。
軍団長が微笑んだまま続けた。「フェリシア嬢、正直私はきみという人を見誤っていたよ。帝都を追放された貴族令嬢で、しかも皇家をたばかったというじゃないか。どんな悪女が来るのかと戦々恐々としていたのだが」「まあ……」 そんなふうに思われてたんだ。 まあ表面だけを見ればそのとおりなので、返す言葉もございませんってとこだが。「ベネディクトにそれとなく見張らせていたんだが、きみの実際の行いは予想と真逆でね」 見張りときた。どうりでちょくちょくベネディクトと鉢合わせたわけだ。 彼のほうを見ると、そっと目を伏せてられてしまった。「これからもどうかゼナファ軍団の力になってくれ。困り事があればいつでも相談に乗ろう」「もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」 深く頭を下げて、軍団長との面談は終わった。 軍団長の部屋を出ると、ベネディクトがついてきた。「フェリシア。私からも少しいいか?」「はい、なんでしょう」 正直さっさと戻りたかったが、副軍団長を無下に扱うわけにもいかない。「きみはかつて『聖女』の称号を得ていたと聞いた。本当だろうか?」「本当ですよ。十歳の魔力鑑定で属性が『光』と出たので」「……!」 魔力鑑定は自由市民であればほぼ全員が受ける儀式だ。 大抵は木・火・土・金・水の五属性のいずれかになるが、稀に私のようなイレギュラーが現れる。 光はその中でも特別で、邪気と瘴気を払う聖女の役割を負うと言い伝えられてきた。その希少さから皇家に嫁ぎ、帝国のために働くのだと。「言い伝えの聖女の力は真実なのか?」 ベネディクトの口調は真剣だった。 この北の要塞町は魔物との戦いに明け暮れる前線の場所。 もしも聖女が本当に瘴気を払えるのであれば、魔物との戦いを有利に進められる。彼らにとって切実に欲しい力だろう。 けれど